【実話 季節外れの怖い話】マンスリーマンション 前編
自分はアパレルの企画職として働いている。
突然だがアパレルは超絶ブラックだ。
いきなり長期出張で数週間平気でどこかへ飛ばしてしまう。
ストレスで毛根から根こそぎ頭髪を吹き飛ばす勢いだ。
これはそんな出張で訪れた地方での出来事だ。
その場所に訪れる事になったのは人生で初だった。
行先は新潟。
お米、日本酒、海産物、そして何よりも新潟美人が魅力的な街だ。
しかし季節は冬。二月の中旬。
年間で一番寒いとされる時期だ。
楽しみよりも極寒の地に足を踏み入れる事への不安が強かった。
寒いのが大の苦手だ。
出張の期間は3週間。
今回は新規出店に伴う出張となる。
そしてその旗振りを全て任される事となった。
期間中の住まいについては総務部のおばちゃんが手配する事となった。
壁の薄いことで知られるレ○パレスだ。
ゴムが薄いのはいいが壁が薄いのは困ったものだ。
そんな部屋ではアレをアレする事が出来ないではないか。
やがて出張へのカウントダウンが始まった時
住まいの手配において問題が生じた。
それはレ○パレスの空きが見つからないという事だった。
新潟は学生の街。
新生活を控えた新大学生との住居確保競争が予想以上に厳しかったようだ。
しかし、自分にとっては好都合だ。
ホテル住まいになる可能性が浮上してきたからだ。
しかし、そんな状況の中、神が降臨した。
降臨した場所は
総務部。
あのおばちゃんの元だった。
ギリギリのタイミングで物件を見つける事が出来たのだ。
本来こういった長期出張の場合、候補となる数件の賃貸物件の資料を受け取りその中から自分で物件を選ぶ事が出来る。
しかし、見つかったのは一件。
選択の余地はなかった。
そして出張の初日が訪れた。
新潟駅に到着した自分は、レ○パレスの営業担当者と待ち合わせ、
鍵を受け取り、契約したレ○パレスへ向かった。
駅からは徒歩10分程度だろうか。
近隣にはコンビニもあり、新規出店先のお店からも近い。
条件としては悪くなかった。
しばらく歩くと現地に到着した。
その場所は住宅街に囲まれた細い路地を入っていくと見えてくる。
2階建ての安ぽいアパートだった。
周囲は塀でぐるっと囲まれている。
閉鎖感がありあまりいい感じはしなかった。
部屋は202。簡易的な外階段を上り部屋に向かう。
あまり時間がなかった為、足早に部屋に入り荷物を置き部屋を出る。
部屋を出るためドアを開けた瞬間、一瞬目を疑った。
目の前に広がっていた光景。
それは塀の外の景色。
塀の外は住宅ではなく、
墓場だった。
部屋に入る時はその風景に背を向けていた為、全く気付いていなかった。
レ○パレスを囲む塀はコの字型をしている。
その塀の外が全て墓場だった。
敷地もかなり広い。
若い女子を仰向けに並べた場合、20000人は入るだろう。
いや、もっと入るかもしれない。
取り敢えず、自分は気を取り直し職場へ向かった。
初日であったこともあり、一日を忙しく過ごした。
ヘトヘトになり、その日はシャワーを浴びて早々に眠りについた。
しばらくして目を覚ました。
時間は3時ぐらいだっただろうか。
物音で目を覚ました様だった。
自分は就寝時も必ず電気をつけたままにしている。
理由は、不思議な現象に出くわす事が多い為だ。
分かり易く言うと怖いからだ。
物音は自分の左足の方向からしていた。
天井からゴミ袋を落としている様な感じだった。
「ドサッ」
「ドサッ」
「…」
「ドサッ」
繰り返し繰り返し、その物音がする。
深夜の静寂の中、より一層その物音だけが響いた。
目の前で起きている事に頭が追いつかなかった。
まだ寝ぼけていた。
しかし、徐々にそれは耐え難い恐怖心へと姿を変えていく。
「ドサッ」
「ドサッ」
普通に考えておかしい。
この状況の説明のしようがない。
一体何だと言うのだ。
誰が何をしている。
しかもここは自分の部屋だ。
もうツッコミ所しかない。
あまりの恐怖心により想像だけが膨らんでいく。
目視で確認する勇気はわいてこなかった。
自分は布団をかぶり、その時をやり過ごすしかなかった。
そして、その時ふとある大切な事を思い出した。
(つづく)